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山口 真人・高内 章
ここ、恵比寿ガーデンプレイスではバカラのシャンデリアがきらめき、クリスマスイルミネーションとともに、聖夜を精一杯に盛り立てようとしているようです。ヨーロッパを中心とした国々では、この季節をずっと静かに迎えていると聞きます。日本では恋人や友人と楽しく過ごすクリスマスも、ヨーロッパでは家族が集まる暖かいイメージがより強く感じられます。それもそのはず、クリスマスは、人を心から愛することを教えたイエス様のお誕生日なのですから。
そんな大切な夜を賛美と感謝で埋め尽くす、それがキリスト者のクリスマスです。そのために多くの作曲家が特別の思いを込めてクリスマスのための曲を作曲しています。そういった目的で作られてきたのが、いわゆる賛美歌やミサ曲と呼ばれる楽曲です。クリスマスには、それ以外にも集まった人々で楽しく時を過ごすために歌われる世俗曲がたくさん伝えられています。本日は、その両方を存分にお楽しみ頂こうと思います。世俗曲、いわゆるクリスマス・ソングに関しては、面倒な説明を抜きに聞いて頂くこととして、ここでは、「真夜中のミサ」について少しお話しましょう。
皆さんは、「シャルパンティエ」と聞いて、最初に何を思い浮かべるでしょうか。ケーキの大好きな女性からは、「アンリ・シャルパンティエ!」という答えが返ってきそうです。でも、ここで登場するのは、フランス国王ルイ14世とほぼ同じ時代に生きたフランスの作曲家のお話です。
マルカントワーヌ・シャルパンティエ(1634?~1704)は、カリッシミのオラトリオに感銘を受けて音楽家を志し、彼の下で音楽の研鑽を積みました。そして、オペラや宗教音楽の作曲家として活躍し、数多くのモテット、ミサ曲、オラトリオなどを残しました。その作品の多くは、パリの国立図書館に保存されているそうです。彼は、リュリ(1632~1687)のように王室付きの音楽家にはなれなかったかわりに、ギーズ公爵夫人の私的な音楽施設の楽長などを務めながら、1684年にはイエズス会のサン・ルイ教会の楽長に就任し、晩年は、ステンドグラスの美しさで世界的に有名な「サント・シャペル」の楽長も務めました。現在、「テ・デウム」、「真夜中のミサ」、「聖母マリアの夕べの祈り」、「メデ」など、比較的多くのCDがリリースされていて、彼の作品に触れることができます。代表作としては、「テ・デウム」をご存じの方も多いのではないでしょうか。あの、冒頭のトランペットのファンファーレは、とても輝かしく印象的ですね。
さて、本題の「真夜中のミサ」ですが、これは、クリスマス前夜から始まる真夜中の礼拝時に演奏されることを目的に作曲されたものです。歌詞は、ラテン語によるミサ通常文によっていて、途中、楽器のみで演奏される「オッフェルトリウム(奉納唱)」が挿入されています。実際のミサでは、ここでキリストの体とされるパンが祭壇に奉納され、キリストを囲む晩餐の準備が行われます。この曲には、「ノエル」と呼ばれるフランスの民衆的なクリスマスの歌の旋律が数多く取り入れられていて、牧歌的な親しみやすさを感じさせます。
ヨーロッパの暗く長い冬はクリスマスを境に折り返し、遠い春を思う出発点ともなります。クリスマスの夜に、神に対して特別の賛美を贈るため、多くのキリスト教会は4週間前からこの日のための準備をはじめ、心を弾ませながら主の降誕を待ち望む日々を送ります。今年も、パリのシャンゼリゼ通りは、クリスマスのイルミネーションに美しく彩られていることでしょう。この演奏会を終えてガーデンプレイスに出られた皆さんは、きっとあのシャンデリアにパリを思い、星空に聖家族を見ているかもしれません。
今宵は、シャルパンティエの名曲とともに、メリー・クリスマス!
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